ブログトップ

部族の絨毯と布 caffetribe

caffetribe.exblog.jp

部族の絨毯と布

カテゴリ:A Tree of Life 生命の木( 2 )

生命の樹を検索でひいてみると、上位に出てくるのは「セフィロトの樹 」ユダヤ教の神秘思想カバラに登場する生命の樹である。
a0051903_064727.jpg

このシンボル的なモチーフに関してはWikipedia をはじめ多くの情報があるのでここではあえて紹介しないが旧約聖書にも登場する象徴的な文様の代表といえるかもしれない。
言い換えると、一神教的世界観の中でこの「セフィロトの樹 」=生命樹は精神世界の中心をなす無意識的イメージの世界でも重要な意味を持ってきたといえるのだろう。
前回から紹介してきた遊牧民のキリムや部族絨毯に表現された「生命の樹」も西アジアに於ける一神教世界観に自然と溶け込んできたものかもしれない。ところが、イスラム教という絶対的な一神教のなかで、ある意味で信仰の対象ともなりえる「生命の樹」文様はどのような意味を持ちどのように表現されてきたのだろうか?
ここにとてもユニークな一枚の絨毯がある。

a0051903_0214083.jpg

                 イラン イスファハン 樹木文様 コルクウール 

この絨毯に画かれている、柳のような樹木と鶴のような鳥はイスラム美術というよりは中国絵画的、もっといえば、書画骨董の「掛け軸」に出てくるような「絵画」である。日本の絨毯研究の第一人者といわれる杉村棟先生も本来のご専門は「イスラム美術」で特に中国絵画とイスラム美術との関係性がライフワークであると仰っておられた。さらに生命樹=神樹と柱立て、そこに欠かせない鳥と樹木の関連性は実に興味深い世界が広がっている。
2001年に出版され、このあたりについてたいへんに詳しく書かれた本で「神樹」~東アジアの柱立て~
という本がある。
a0051903_0344714.jpg

民俗学者の萩原秀三郎氏著作のカラー写真も豊富な名作であるが、宇宙の中心を巡るというコンテンツのなかに信州の奇祭「諏訪神社の御柱祭り」から中国少数民族の「稲と鳥と太陽」の生命樹信仰(本の表紙)からシベリアに於けるシャーマニズムの中心的役割を担う「柱立て儀礼」を貴重なフィールドワークと共に紹介している。

a0051903_0435889.jpga0051903_0441875.jpg




諏訪神社の御柱祭り
「御柱祭り公式サイトより引用」








もちろん東アジアに限らず、東南アジア、インドネシア、インド、ネパールなどにも非常に共通した祭りや儀礼信仰の対象となる表現は驚くほど多くまた類似している。
インドネシアスマトラ島に伝わる儀礼布タンパンクロス「霊船布」にも生命樹と鳥や龍の複合した表現が多く見られる。この地域の人々にとって船と生命樹そして龍に乗る祖霊は彼らの先祖そのものとして、神話世界に登場する最も重要なイメージでもある。(先祖は船に乗って海のかなたからやってきたと伝えられている。)

a0051903_047796.jpg

                インドネシア スマトラ島  霊船文様布  タンパンクロス

こうした鳥や龍と共に表現される生命樹はアジアにのみならず、汎太平洋に広がる先住民文化にも共通して見られるようだ。例えば、北米地域の先住民文化としてよく知られるトーテムポールやアーストラリア先住民のスターポール、北欧先住民ケルト文化のメイポールなど数え上げればきりがない・・・。

こうしたトーテミズム的(アニミズム的)シンボルを持つ生命樹文化は、イスラム教が広まった地域のなかでも、遊牧的な生活を続けて生きた人々のなかに、時として表現される場合があるようだ。
a0051903_122489.jpg

                      バルーチ族 祈祷用絨毯の部分

このなんともユニークなモチーフはバルーチ族の祈祷用絨毯のなかに表現された文様である。
鶏冠を持つ鶏のようなモチーフはバルーチ族にとって重要なトーテムを意味するモチーフのようだが、この中では生命樹と混合されてなんとも不思議な形として表現されている。
西アジアに暮らす遊牧民にとっても生命樹+鳥などはイスラム教以前のアミニズムやトーテミズムあるいはシャーマニズムなどのいわゆる原始的信仰といわれるものの名残なのか・・・?
イラン西部のザクロス山脈地域のルリスターンにも鳥と柱に関連するような奇妙なブロンズが出土している。

象徴的文様の持つ意味を探る上でも興味深い世界である・・・。
[PR]
by caffetribe | 2009-09-08 01:07 | A Tree of Life 生命の木
昨日でエスニカさんのセールが終了いたしました。
会場にお越し頂いた方々や会場となった、エスニカさんには大変にお世話になりました。
心よりお礼申し上げます。

会期中に更新出来なかった「生命の樹」モチーフに関して少しばかり補足したいと思います。
部族じゅうたんやキリムには実に様々な形をした生命樹が登場しますが、同時に違った部族でも共通した「生命の樹」モチーフも表現されています。
部族の間で共通に表現される「生命の樹」モチーフが移動などで伝えられたものなのか、自然発生的なものなのかを考察することで、交流による伝播か、先天的な嗜好なのかという、文様発祥の起源を知る手掛かりとなる可能性を秘めているように思えます。

ここではいくつかの、部族じゅうたんやキリムに良く見られるモチーフを紹介します。

            ≪真っ直ぐに伸びた樹木が左右に枝を広げている「生命の樹」文様≫
a0051903_16343612.jpg

   バルーチ族 シスターン地方(イラン東部) 袋物 表面 ジジム (縫い取り織り) 羊毛
           
a0051903_16512082.jpg

      シャーセバン族 イラン北西部モーガン山周辺 サドルバック ジジム (縫い取り織り)

a0051903_1657289.jpg

      シャーセバン族 イラン北西部モーガン山周辺 サドルバック ジジム (縫い取り織り)

上の三つの「生命の樹」モチーフは共通して袋物の表皮部分全体に表現されている。枝部分の濃密度に多少の違いはあるものの全体的なフォルムは似ているといえるかもしれません。
バルーチ族はシリアなどのアラブ地域からカスピ海沿岸を通過して、現在のホラサーン地方からシスターン地方~アフガン~パキスタン広い地域に生活範囲を広げています。
カスピ海沿岸地域を通過する際に、シャーセバン族との交流があったことは容易に考えられます。

a0051903_1775966.jpg

 バルーチ族 ホラサーン地方(イラン北東部) ソフレ 食卓布 ジジム (縫い取り織り)
このソフレ(食卓布)は最も気に入っていたアンティークキリムの一枚だが、ホラサーン地方のバルーチ族を代表する「生命の樹」文様が見事に表現されています。

a0051903_17222359.jpg

バルーチ族 ホラサーン地方(イラン北東部) ソフレ 食卓布 ジジム (縫い取り織り)
a0051903_17234341.jpg

バルーチ族 ホラサーン地方(イラン北東部) ソフレ 食卓布 ジジム (縫い取り織り)

上の3点は共にイラン東北部の豊穣な地域ホラサーン地方のバルーチ族のものだが、共通した「生命の樹」文様が織り込まれたソフレで、食事の時に広げられる遊牧民にとって貴重なラクダ毛を使ったアンティークキリムです。このホラサーン地方は古くから豊穣の土地として力のある遊牧系部族の集まる土地であり、北部には騎馬民族のトルクメン族、西部にはイラク側のクルディスタンから分離させられたクルド族が、南部には多様な支族を持つバルーチ族が移動生活を続けてきました。
豊かでなだらかな土地であるホラサーンは、西瓜やメロン、葡萄などの果実、紅玉瑞(カーネリアン)、瑪瑙(メノウ)、トルコ石(フィルゼ)などの天然貴石、そして質の高い羊毛の産地として名高く大型の一こぶラクダも多く棲んでいます。
a0051903_17405461.jpg

       クルド族 ホラサーン地方(イラン北東部) ソフレ 食卓布 ジジム (縫い取り織り)
食卓布の細長いソフレは大型のラクダを所持する限定された部族によって織られるが、脂分を含んだラクダの毛は発水性が高く、テント内に敷かれた大型のキリムや絨毯を汚さないためにも欠かせないものです。
このラクダの毛を使用したソフレはホラサーン地方のクルド族やバルーチ族に特に多く、食事の場を和ませるであろう「生命の樹」文様が織り込まれています。

「生命の樹」文様はおそらく、多くの願いや信仰の対象として表現される事もあるのだろうが、乾燥地域においては樹木=水場=オアシスという遊牧系民族の心を癒すシンボル的な意味もあるように思えます。
[PR]
by caffetribe | 2009-08-31 17:54 | A Tree of Life 生命の木