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部族の絨毯と布 caffetribe

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部族の絨毯と布

<   2008年 03月 ( 5 )   > この月の画像一覧

遊牧系部族の人たちは驚くほどの簡素な織り機で様々な複雑な技法を生み出し、それらを多様に変化させながら織りの構造(Woven Structures)を発達させてきた。
特に驚くべきことはウィーブバランス=タテ糸とヨコ糸の均衡が完璧で、硬くもなくゆるゆるでもなく収まることである。
             
初心者は特にこのタテ・ヨコ糸のテンション(張り具合)に散々に悩まされる。 特に羊毛のような滑りにくく、手紡ぎまどの不均一な撚り糸を使う場合相当な経験がなければ、パイル(絨毯)と綴れなど違った技法を組み合わせながら、上下左右をゆがみなく織るのは難しい。

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これは遊牧民を写した写真の中で最も好きなもののひとつ。おもちゃの織り機で練習(遊ぶ?)トルクメンの子供。 Mr.JON THOMPSON 『Carpet Magic』から

様々な織りの技法が有る中で、これまでに続けて紹介してきた 
シャーサヴァン族のスマックという技法を紹介してみたい。
                      
《シャーサヴァン族の得意な織り技法》スマック技法
a0051903_17552311.jpg図のように通常2本のタテ糸にヨコ糸を巻きつけるようにして、一列ずつ端から端まで表現したい柄を色糸を変えながら織り込んでいくという、大変に手の込んだ時間のかかる作業がスマックである。

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↑1.プレーンスマック(順目スマック)タテ糸(2本取り)に左から右へとヨコ糸を巻き取りながら一段づつ進む方法。同じ向きに巻きつけて行くため揃ったきっちりした印象をもつ。
 特にシャーサバン族のマフラシュやドラゴンスマックと呼ばれる南コーカサス地域によく見られる技法。

a0051903_18142635.jpg←は典型的なスマック技法のマフラシュ(寝具入れの部分)
裏側はまるで絨毯の結び目のようなひとつひとつの糸の絡みが見て取れる。
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実は織りの構造については文様や色などと比べ、あまり興味がなく、当然その技法などもほとんどしらなかった。数年前にMarla Malletさんの『Woven Structures』という本に
出会い、何十という遊牧民の織り技法のバリエーションに驚きそれを克明に調べ構造のイラスト共に丹念に調べ上げた 著者の執念ともいえる探究心に驚いた。
            
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2.逆目スマック順目とは逆に一列づつ反対方向に糸を巻きつけていく。揃った感じはな
いが文様に表情がでて立体感が出る。。
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イラストはMarla Mallet著『Woven Structures』より

《参考文献》
『woven Structures』 Marla Mallet 著





  
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by caffetribe | 2008-03-28 18:35 | 毛織物の技法
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今回は2週間という少し長めの展示であったためゆっくりとしたペースで展示を行うことが出来たように思います。
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このブログを見て来ていただきバルーチ族のラグを気に入って頂いた方もいらっしゃいました。
ありがとうございました。とても励みになりました。

会場にいらして頂いた方にはお渡ししたのですが、シャーサバン族はどんなタイプの毛織物を織るのか、またどのような特徴をもつ織りや技法を持っているかを少し紹介したいと思います。

《シャーサヴァン族の毛織物の機能分類》
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1.マフラシュ(寝具入れ袋)欧米では,赤ちゃんの揺りかごとも呼ばれることもある。

布団や毛布などの寝具をメインに、掛け布やキリム・絨毯の敷物等遊牧民の移動の際に最もかさばる大型の所持品をラクダのコブの両側に掛けて運ぶための袋物。

 長いほうの側面部分と底、短い方の側面2枚の3枚が一組で、平面として織り上がったものを後で底と両脇を纏り縫いして箱状に仕上ています。
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この上の写真はとても珍しく、切り離す前の短い方のサイドパネル(側面)は付いたままの形状で残っていたものです。

テントの中では様々な道具や衣類小麦などの生活に不可欠なものを収納する箪笥や棚のような役目を果たしています。
また四方を紐で繋ぎテントの天井から吊り下げると揺りかごにもなるという 大変に多目的な用途を持つ毛織物の袋がマフラシュです。
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2.鞍掛袋=ホールジン(サドルバック)…↑主にロバなどの動物の背にかけて両側に振り分けて荷物を入れる袋。大型のものはラクダや馬に小ぶりなものはロバなどに乗せて使用する。袋の留め口は綴れ織りで紐を編みこんで中身が飛び出さないような工夫が見られる。
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3.塩入れ袋―ナマクダン(ソルトバック)… ↑家畜をコントロールするのに欠かせない塩を収納する遊牧民には欠かせない袋で、家畜に舐められないように口の部分が、細くなっている。

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4.雑用袋=チャンテ(バニティバック)・・・↑遊牧に出かける際にはナンなどのお弁当を入れたりや
男性は煙草などの嗜好品、女性は化粧道具や装飾品などを
収納するいわゆる小物いれ。サドルバックや塩入れ袋などと同様に表側には部族を象徴する
モチーフが織り込まれるが裏側は縞模様が多い。

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↑は典型的な綴れ織りのいわゆるキリム。モチーフが大胆で遠目からも良く目立つ
3.敷物・・・・シャーサヴァン族は他の部族と比べてあまりパイル
(絨毯)の敷物を織らない事が知られている。
どうしてパイルが少ないのかは良くわからながイラン人の部族じゅうたん研究家Palviz Tanavoli氏の調査では、19世紀まではパイルの絨毯が織られていたが、20世紀始め頃から大変に少なくなり最近では、マーケットではほとんど見つけることが出来なって
来ていると記している。
これは想像に過ぎないが、持ち運びに重いため山岳地域の移動が多いシャーサヴァン族の遊牧生活に適さないために織らなくなったのかたんにパイル(結ぶ)という技法をこ好まないのかは良くわかっていない。

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↑はおそらくシャーサバン族のパイル(絨毯)タブリーズの古い絨毯バザールで見つけたが
細長いサイズだったためあきらめたが 今思えばどうして購入しなかった のか後悔している。

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4.掛け布・・・↑シャーサヴァン族のもうひとつの評価の高い毛織物としてジャジムと呼ばれる多目的に使用される毛織物がある。
                        
タテ糸紋織りの技法による細幅の反物のような毛織物がジャジム。何枚かを繋ぎ合わせ幅広の毛織物にしてテント内の間仕切り布団隠し、毛布、敷物、風呂敷、動物に荷物を乗せその上に被せるためなど多目的に使用される。

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5.動物の飾り&紐類・・・↑

遊牧民にとって欠かせないのが家畜であり家畜は家族のように大切な存在である。
それらの家畜を見分けたり、婚礼の際などに飾るための装飾品も毛織物で作られる。
また同様にテントを組み立てる際に必要なテントベルト、動物に荷物を積むための荷紐も
凝った織りが施される。  

『会期中お世話になったぎゃらりぃの方、見に来て頂いた方はたいへんに感謝しています。』

上の2枚の遊牧生活の写真は( Nomads of Iran) M.R.BAHARNAZ 氏の写真集から
の引用です。

《参考文献》
( Nomads of Iran) M.R.BAHARNAZ 写真
 『SUMAK BAGS』 John T. Weretime著

                
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by caffetribe | 2008-03-25 18:16 | 部族の絨毯について。
  シャーサヴァン族の文様世界の展示も好評のうちに中盤を過ぎました。
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今回は初めてシャーサヴァン族だけを展示しているが同じ部族のものを展示することには少し抵抗があった。というのは、似た文様、似た色彩を並べて展示するとどうしてもかぶってしまい、全部が同じように見えてしまうので、一枚一枚が 目立たなくなってしまうのではないかと感じていたからである。

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 ところがこのシャーサヴァン族の文様にはそんな懸念を打ち砕くすごいパワーが込められていると、思うようになって来た。見れば見るほど、一つ一つの文様に表現された世界がひしひしと伝わってくる。
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じっくり見ていると、そのモチーフが星の瞬きのように 煌いているように感じられた。
そしてそれぞれ違うはずの織り手によるものなにその『ゆらぎ』のような波動が共鳴して全体に広がりまさに満点の星空中に包み込まれるような気分になった。
これまでは、一枚一枚のなかに宇宙的な空間を感じていたのだがそれらが、全体に広がりその場所が共時的な場として感じられたりした。

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     スマックという技法で織られた、マフラシュ(寝具袋)の表皮。 19世紀

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    典型的な綴れ織りのサドルバック 19世紀
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     これもスマック技法のマフラシュの表皮 19世紀
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     スマック織りによる動物の飾り(ラクダ飾り) 
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     縫い取り技法による動物の荷紐 19世紀 

遊牧という、有る意味、厳しくもあり楽しくもある、暮らしから生まれた道具としての毛織物の魅力を再認識させてくれる展示になった。

これらの色彩と文様にどのような思いを込めたのかは 計り知れないが、見ているものに心地よさと不思議なエネルギーを与えてくれるのか、会期中には様々な偶然の出会いなどもあり
小さなぎゃらりぃ空間ではあるが、なにか気持ちのよいひと時を過ごしてもらえることを願っている。               

3月24日(月)まで、ぎゃらりぃ風趣にて 

奈良では友人のFさんによるもうひとつの部族の毛織物の展示が行われている。幾つかのシャーセヴァンのキリムも展示されるようだ。
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by caffetribe | 2008-03-20 18:33 | 展示会あれこれ
 
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          3月12日(水)~24日(月)ぎゃらりぃ風趣にて                           

                          《シャーサヴァン族とは》
a0051903_1940422.jpg アゼルバイジャン~ダゲスタンから北イランのモーガン山~サバラン山周辺の山岳地帯と高原をテリトリーに遊牧生活をするのがシャーサヴァン族です。

ペルシア語でシャーは王様をセバンは愛する者(あるいは友人)を意味します。技術・配色・デザインのすべてに卓越したセンスをもつ彼らの毛織物は欧米でとびぬけた評価を得ています。

標高の高いところを移動する彼らは、チベットやアンデスの人々と同様の覚醒した色彩感覚と、常に天に近い場所を住処とする故の、宇宙的ひらめきのともいえるデザイン感覚を併せ持ち、これらを彼ら独特の技法(スマック織り)でセンス良く織り上げます。 

↑の写真は北西イラン~コーカサス南部のサバラン山山麓で遊牧するシャーサヴァン族です。テントの前で織っているのはジャジムと呼ばれるタテ糸紋織りの細長い毛織物です。
それにしても長い20メートルは有るでしょうか?これも野外で生活する遊牧民ならではです。 

 どうしてこのような大げさなタイトルをつけたかといえば、彼らの織る毛織物のモチーフがあまりにもユニークであり、普通の人々にはどうしても表現できないような見事なモチーフを持ち、長い伝統のなかでそれらを守り続けてきたからです。
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               James Opie 『TRIBAL RUGS』からホースカバーの一部

動物や鳥などのモチーフには洗練と遊び心が上手く混ざり合い 独特の面白さをかもし出しています。これらのモチーフはマフラシュ(布団袋)やサドルバックヴェルネアと呼ばれる掛け布やホースカバーなに表現され生活の道具として生かされるものばかりです。
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         John T.Wertime『SUMAK BAGS』からマフラシュの一部

そのオリジナルの古いものは年々入手が難しくなっています。

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シャーサヴァン族生活するテリトリーはコーカサス=アゼルバイジャン地方~トルコ東部(クルディスタン)~イラン北西部と多様な民族、部族が集散を繰り返してきたれ歴史的重要地域でもあります。
部族絨毯研究家のJames Opie 氏はシャーサヴァン族は単なる部族ではなく、ハムサ(5部族連合)などのようにシャーサヴァンという部族連合体であるとしています。
そして、イランや、アナトリアの地方の先住民と混合しながら現在に至っていると分析しています。そしてキリムや絨毯を織る人々も大きく山岳地域を遊牧する人々と、サラブ、ザンジャン、ヴェラミン、ガズヴィン、サヴェなどの村や町に半定住する人々の織るものと分けて見て行くことが出来ると考えます。

遊牧系の代表はサバラン山~モーガン山を南北に移動する山岳遊牧民で、マフラシュなどのスマックやキリムの袋物やホースカバーなどが有名です。

定住シャーサヴァン族は日本でもファンの多いガズビンやヴェラミンなどの綴れのキリムが有名です。

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             John T.Wertime『SUMAK BAGS』から引用
トルコ語を話すことからトルコ系と考えられますが全てがトルコの血統をひくというわけではなくタジク系クルド系、ペルシア系の血をひく者も多く含まれる。と部族絨毯研究者のBRIAN W.MACDNALD氏ももう一冊の『TRIBAL RUGS』ののかで述べている。

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  John T.Wertime『SUMAK BAGS』からサドルバックの表皮スマック織り。

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同時にシャーサヴァンの名前の由来でもあるサファビ朝時代にアッバス王に忠誠を誓い、オスマン朝トルコの北西からの異民族の侵入を防ぐための警護にあたり、その後はロシアの南下を防ぐべくペルシア北西を守ってきた。
これにより最初に記したペルシアのシャーの友人もしくは使えるもという称号を得たのだが、19世紀の強力武力を持つロシア軍の南下により、アゼルバイジャン地域からガズヴィンなどテヘランのすぐ南西へと移動したらしい。

このときに山岳遊牧民としてのシャーサヴァン族のオリジナルのモチーフがイスラム美術や都市の洗練されたモチーフへと変化していった可能性が高い。

今回の展示会では都市化して定住する以前のより自然的な動物や天体などの宇宙的ないイメージの広がるシャーサヴァン族特有なマフラシュやサドルバックなどの生活道具としての毛織物を中心に展示してみたいと思う。

同時にガズヴィンやヴェラミンなど村のキリムも紹介し、その違いやモチーフの変化などを同時に展示して見ていただければと考えている。


これまでに収集した150点ほどのシャーサヴァン族の世界を是非見ていただきたく思います。

《参考文献》
John T.Wertime 著『SUMAK BAGS』
jAMES Opie 著( TRIBAL RUGS)                   
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by caffetribe | 2008-03-10 20:01 | 展示会あれこれ
天然染料だからといってよいとか化学染料はよくないというものではないが、やはり過去の素晴らしい植物や虫などによる染色技術をみると圧倒される。
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 ケルメス樫という樫の木に作られた小さな虫の巣から取る赤い色。小枝のあいだに雌が赤紫のビーズのような玉を作る。これを酸に溶かしてから乾燥さて染料とする。
このケルメス樫はユーラシアが原産でフランス・スペイン・イタリアなどに分布。

ペルシア語で虫をケルメスというのですが、まさにケルメス=虫。
赤という意味のギャルムと頭の綴りが違うが音が似ている。

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これは17世紀のイスファハンで織られたといわれる絨毯である。
化学染料が最初に出来たのが、1859年のイギリスということなのでこれはまさしく天然の染料だけで染められたことになる。
ケルメスが使われているかもしれない。
ちなみに、最初の合成染料はマラリアなどの特効薬を開発中に偶然に廃液が赤くなるのを、ヒントに出来たといわれいて、この染料はその後急速に広まるが、退色が激しく暫くして消えていく。
               
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これも18世紀のアナトリアキリムであるが化学染料のない時代に織られたものである。

 両方に使われている、赤とピンクの色が素晴らしい。
このピンク色は一見化学染料のように見える。 私たちは先入観として、ケバケバしい色は化学的な印象をうけてしまうようだ。実際にイギリスで有名なオークションのsazabysでこのピンク系の色を化学染料と判断し、本来であれば高額で評価されるものを、外して損をしたという話を
聞いたことがある。色の判断は本当に難しい。

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例えばこの染めは、茜のなかに様々な植物が入っていた。
ひとつは胡桃の果肉。これに含まれるタンニンがより深い色を 出すようだ。ほかにも柑橘類の皮を入れたり、遊牧民の様々な経験と継承が込められている。
                
だから簡単に天然の染料を同定するのは容易でない。
本格的に染料の鑑定を行うには、遠心分離機のような専門の装置が必要で、そのためには1回につき5万円ほどの費用がかかってしまうようだ。
であるから実際には長年の経験からくる『勘』が頼りという事になってしまう。
              
 西アジアで赤の染料といえば、茜という植物の根が一般的。
 しかし茜には微妙に黄色い成分ば含まれていて純粋なピンクや紫を出すのには適していないようだ。日本茜などを見ても夕焼けの空のような穏やかなオレンジ色が多い。

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このマーシュアラブの刺繍布は圧倒的にオレンジ系が多い
そしてかなり華やかな色を組合わせている。染料はといえば化学染料のように思える。しかし化学でも天然でも関係ないような
面白さが有る。色とはいったいなんであろう。
               
学校ではマンセルの色見本などで色相や色彩や補色関係などを学んだ記憶があるが、まったくそういう知識のない遊牧民や先住の土着的世界のなかに深い色を感じることが多い。


《参考文献》
Harold Bohmer 著 『KOEKBOYA』
               

          
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by caffetribe | 2008-03-05 20:00 | Life is color